『粘膜』最近取り組んでいること
漢方相談をやっていると常々
「どこで?」「何が?」「どうなっている?」
を頭の中で巡らせている
ここ数年、気道粘膜へのアプローチが多かったこともあり
粘膜の捉え方を再考することとなった
皮下・目・鼻腔・気道《肺》・口腔・食道《胃》・腸《胆嚢・肝》・膣・子宮《卵巣》・尿道・膀胱《腎》
カラダのあらゆる部位に存在する粘膜層
外界と体内との境界
と私は考えている
これらの部位には常在菌がおり外界と近い部位であるため体内ではない(外界と繋がっている)
*《 》内は付随する臓器でそこには細菌は存在してはいけない(肺は外気が直接流入する場所であるから全くの無菌ではない)
・体表面は真皮に覆われその下に粘膜層があり傷が出来れば免疫細胞が集結して外敵から守っている
・空気中のホコリや細菌などは目・鼻腔・口腔などから侵入するため防御している
・子宮はおりものや月経により浄化を常とし、精子の侵入は異物として排除を試みる(時として受精して子を授かる)
・尿道は一方向にしか流れず細菌の侵入を妨げている
これらのバリア機能が破綻すると病が生じる
いわゆる感染症の始まりである
感染症は急性疾患と捉えられがちではあるが
たとえばピロリ菌による胃がん、HPVによる子宮頸がん、肝炎ウィルスによる肝臓がん
原疾患を辿ると感染症であるケースは少なくない
これら感染症の発症部位は粘膜層であることがわかる
粘膜をコントロール出来れば
様々な病や病名のつかない不調を治すことができるのではなかろうか?
そもそも粘膜は何で出てきているのか?
漢方には気血水・陰陽というエネルギー概念がある
これらを操るのがヒトの生体生理でありそれを正すのが漢方薬である
そして私は
気血水・陰陽の中で粘膜と関りあるのは水(と気)ではないかと考えている
この1-2年の間に幾度となく登場してきた慢性上咽頭炎と荊防敗毒散は鼻腔~気道粘膜の治療のために用いた
本来、化膿性皮膚湿疹の薬であり肌表粘膜の浸潤(ジクジクして水が溢れているもの)を治療する
それを鼻腔から少し奥に入った部位に応用して著効を示した
これからハイシーズンとなるスギ花粉症は
目・鼻腔・咽頭の粘膜にアレルゲン(スギ・ヒノキの花粉)が付着すると
粘膜層が肥大して粘液が漏出してくる現象である(涙・鼻水・鼻づまり・くしゃみ)
外界と近い部位の粘膜の肥大に対して用いる薬草が黄耆である
黄耆は肌表の水を動かすことに特化している
花粉症もその応用であろう
腸は過敏な状況下においては下痢することがしばしばある
蠕動運動の亢進により便の排出を早め水っぽい便が出てくる
粘液が漏出していることが窺える
治療は蠕動亢進を鎮めるだけでなく粘液の漏出を弱めることとなる
ここで用いるのは防風である
袪湿と呼ばれる作用をもち粘膜下の水吸収を促してやる
子宮はどうか?
子宮筋腫には3種ある「漿膜下筋腫」「筋層内筋腫」「粘膜下筋腫」
私がこれまでチャレンジしてきた経験からすると
3種すべてを同じ治療でトライしても結果は芳しくない
*漿膜下筋腫はまだ病態を掴めていない
筋膜下筋腫はいわゆる瘀血の概念のもと治療を進めていく傾向にある
つまりここでは水ではなく血の関与するところとなる
そして粘膜下筋腫は鼻腔・口腔・気道などと捉え方は同じである
外界に近い部位の粘膜層である
傷寒論は外感病による病の発症とその進行過程を示している
例えば
柴胡を用いるタイミングを半表半裏といい
そのときは病位が表からやや裏に近づいたことを示している
桂枝湯(表)→柴胡桂枝湯(半表)→柴胡桂枝乾姜湯(半裏)→柴胡加竜骨牡蠣湯(半裏)→大柴胡湯(半裏)→柴胡加芒硝湯(半裏)→承気湯類(裏)
冒頭の《 》内に記された部位に病巣が及んだときがそのタイミングである
傷寒論の病位の捉え方を後世方に組み込むことで治療の幅は広がりを見せる
小柴胡湯《肺》・大柴胡湯《肝胆》・逍遙散《卵巣》・柴苓湯《腎》
といった具合に処方を当ててみると深さがが一歩進んだことが伝わるだろうか…