帰脾湯で動悸がする
帰脾湯
虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:貧血、不眠症
体質虚弱な人が、顔色が悪く、貧血気味で、精神不安、心悸亢進、不眠などの精神症状を訴える場合に用いる。
1)下血、吐血などを伴う場合
2)盗汗、全身倦怠感、食欲不振を伴う場合
本方は、体質虚弱なものの顔色不良、貧血傾向、精神神経症状を目標に用いられる。
腹部は一般に軟弱で、脈も弱い。精神不安、抑うつ、神経過敏、心悸亢進、健忘、不眠などを呈し、しばしば出血傾向(吐血、下血、鼻出血など)、盗汗、全身倦怠感、食欲不振などを伴う。
*ツムラ手帳参照
出典【済生方/健忘論治 宋 厳用和】
論曰、夫健忘者、常常喜忘是也、蓋脾主意興思、心亦主思、思慮過度、意舎不清、神官不職、使人健忘、治之之法當理心脾、使心意寧靜思、則得之矣。
帰脾湯
治思慮過制、労傷心脾、健忘怔忡。
白朮 茯神 黄芪 龍眼肉 酸棗仁 人参 木香 甘草 (生姜 大棗)
*済生方には不眠や出血という言葉は出てこない
*構成は遠志や当帰が含まれない
【世医特効方/元 危亦林】
治思慮傷脾、心多健忘、為脾不能統摂心血、以致妄行、或吐血、下血。
*吐血・下血といった出血症状が登場する
*遠志・当帰は含まれない
【校註婦人良方/明 薛己】
治脾経失血少寐、発熱盗汗、或思慮傷脾、不能摂血、以致妄行、或健忘怔忡、惊悸不寐、或心脾傷痛、嗜臥少食、或憂思傷脾、血虚発熱、或肢體作痛、大便不調、或經候不准、晡熱内熱、或瘰癧流注、不能消散潰斂。
*校注婦人良方で少寐や不寐が登場する
動悸がする
この記事を書いたのは帰脾湯は動悸に使う処方なのに帰脾湯を飲んだら動悸が出たと仰る方がいたからです
その方の主訴は不正性器出血でした
他所で処方された芎帰膠艾湯で出血は止まるようですが胃弱なため痛くなって飲めないという
うちでは
- 当帰芍薬散・・・出血が再発→補血が弱い
- 八珍湯・・・胃痛→地黄が受け入れられない
- 当帰建中湯・・・飲み始めは出血が止まっていたがその後再発。さらに頭痛と浮腫み出現→桂枝が合わない
- 帰脾湯・・・動悸→???
と適切な処方が見つけれれませんでした
当帰では出血が止まらずそれをカバーするためには膩性の高い(ベタベタした)ものが必要なのだと考えました
膩性の高い薬物:阿膠・地黄・大棗・膠飴・龍眼肉
また桂枝で頭痛・浮腫みが出たのは足りないもの(血虚)を無理に走らせようとしたためだと考えました
そして今回の帰脾湯の動悸・・・
このページの初めにある通り帰脾湯は動悸(心悸亢進)のあるものに使う処方です。しかしこの方は他の処方で出ていなかった動悸が帰脾湯を飲むことで出現しています。この場合、帰脾湯の中の何かが悪さをしていると考えるべきでしょう。
帰脾湯:黄耆・人参・朮・茯苓・酸棗仁・竜眼肉・当帰・遠志・大棗・生姜・甘草・木香
当帰芍薬散、当帰建中湯・八珍湯の処方構成から考えると帰脾湯で初めて用いた薬草は5つ
黄耆・酸棗仁・龍眼肉・遠志・木香
このうち木香は嗅いでもらうと心地よいと言うので除外しました
また阿膠・地黄の代わりとなる補血薬は必須でありこれらが動悸を起こすとは考えにくく酸棗仁・龍眼肉も除外しました
最後に黄耆は働く部位が肌表でありアレルギーでない限りこれが動悸を起こすことは無いだろうと判断しました
芎帰膠艾湯
出典【金匱要略・婦人妊娠病】
師曰:婦人有漏下者、有半産後因續下血都不絶者、有妊娠下血者、假令妊娠腹中痛、為胞阻、膠艾湯主之。
≪訓読≫婦人に漏下するものあり、半産によって続いて血を下しすべて絶えざるものあり、妊娠して血を下すものあり。もし妊娠し腹中痛むは胞阻となす。膠艾湯之を主る。
【勿誤薬室方函口訣 / 浅田宗伯(1815-1894)】
此方は止血の主薬とす。故に漏下胞阻に用いるのみならず千金外台には妊娠失朴傷産及打撲傷損諸失血に用ゆ。千金の芎帰湯、局方の四物湯皆此方を祖とすれども阿膠の滋血艾葉の調経加之に甘草の和中を以ってしてその効妙とす。是以って先輩は四物湯は板實而不靈と云なり。また痔疾および一切の下血此の方を與て血止の後血気大いに虚し面色青惨如土、心下悸し或いは耳鳴は三因加味四君子湯に宜し。蓋し此の方は血を主とし彼は気を主とす。彼此各其の宜しき虚あるなり。
【漢方古方要方解説 / 奥田謙蔵】
膠艾湯の類方…温経湯、当帰芍薬散、黄土湯、酸棗仁湯
遠志で動悸?
【中医臨床のための中薬学】
遠志(オンジ)はヒメハギ・イトヒメハギの根または根皮で ①安神益智・豁痰開竅 ②散鬱化痰の効能がある
[臨床使用の要点]
遠志は辛散・苦泄・温通し、助心陽・益心陽さらに腎気を上交させて交通心腎に働き、安神益智の効能を持つと同時に痰濁を除き開竅するので、心神不寧の惊悸失眠や痰阻心迷の迷惑健忘に有効である。また、散鬱化痰にも働き、肺の散邪痰飲による咳嗽に効果があり、寒凝気滞・痰湿入絡による癰疽腫毒にも内服・外用すると消腫止痛の効果が得られる。
a 不正出血が続き血が足りていない状況に在りながら開竅薬である遠志が働いたことで心主血脈が強まりそれを動悸と感じた
b 温燥の性質があり陰虚火旺の傾向があるものを乾かしてしまった
と考察しました
そして目標である不正出血対しては帰脾湯去遠志により補血摂血が適うと判断しました
1週間後
動悸・胃痛・頭痛・浮腫み等なく元気が出て、主訴の出血も止まっていました