顔面神経麻痺 反省事例
体内に存在するヘルペスウィルスが暴れ出すことにより発症するウィルス性疾患
ベル麻痺・ハント症候群が全体の約8割を占める
数年前に歌手のジャスティンビーバーさんが発症して大きな話題にもなった
一昔前は「働き過ぎ」「ストレスが原因」などと言われたこともあったが
それはウィルスが暴れ出すキッカケに過ぎない
漢方治療
初期対応で麻痺が残らないように上手に処置することが重要
漢方では感染性疾患と捉え葛根湯や桂枝加苓朮附湯を発病初期に用いることがある
これらの処方は桂枝湯を基本骨格とした発展処方である
桂枝湯は陰陽両虚に呼応する
つまりウィルスが暴れ出すキッカケとなった”弱り”を整える目的だ
陽虚に偏っていれば附子を加えた桂枝加苓朮附湯、邪実を去ることを主軸にすれば葛根湯となる
しかし急性期の対応が不十分なために麻痺が残ってしまった場合には次の一手を準備しておく必要がある
続命湯
金匱要略・中風歴節病
《古今録験》続命湯:中風痱にて身體は自ずから収めたもつこと能わず、口は言うこと能わず、冒昧(はっきりしない)して痛むところ知らず、あるいはこわばり転側(横になる)するを得ず
金匱心典/尤在涇
痱は廃なり。精神はたもつこと能わず。筋骨は用いず。邪気の乱れ、また真気の衰えだけに特化せざるなり。麻黄桂枝は以って邪を去り、人参當歸は正を養う。石膏は杏仁と合し散邪の力を助ける。甘草は乾姜と合し復気の需(もとめ)と為す。乃ち攻補兼行の法なり。
勿誤薬室方函口訣/浅田宗伯
此方は偏枯の初起に用て効あり。其他産後中風身體疼痛する者或は風濕の血分に渉りて疼痛止まざる者又は後世の五積散を用る症にて熱勢劇者に用ゆべし
漢方処方解説/矢数道明
大青竜湯証に似て、血虚の証あるものに用いる。すなわち表証があって、しかも裏に熱があり、血液枯燥の状のあるものである。最もしばしば脳溢血による半身不随や言語障害の比較的初期に使われるが、相当期間の経過したものに用いても良い。本方は主として脳溢血・脳軟化症・高血圧症に用いられ、神経痛・顔面神経麻痺・関節炎・偏頭痛でよだれがでるもの・喘息・気管支炎・腎炎・ネフローゼ・頸項の凝り・浮腫・眼筋麻痺等にも応用される。
70代女性
発症から2か月が経過した顔面神経麻痺に対し、まずは牛黄製剤を服用してもらった
*もちろん大学病院耳鼻科にて初期対応は受けている
根拠としては浅田宗伯が「風濕の血分に渉りて疼痛止まざる者…」
つまり衛気営血弁証の血分証とした
3週間服用して頂いたがこれといった効はない
そこで続命湯へと処方を切り替えて3カ月様子をみた
しかし明確な変化はなかった…
漢方大医典/大塚敬節
鍼灸の治療がよく効を奏する病気の一つである。発病後早い程、経過は良好である。麻痺を起こして数カ月以上たったものは、完全な治癒を望むことがむずかしい。
うちに相談にいらした際に大学病院で針灸治療もあるがやめて欲しい旨を主治医から受けていた
そのためこちらからは提案しなかったが果たして正解だったのだろうか…
以下に他の大学病院の顔面神経麻痺専門外来の紹介をしておく
漢方薬(煎じ薬)と並行して、場合によっては漢方薬よりも優先して針灸治療を受けてほしい
反省からそう思う次第である
新型コロナウィルスのワクチン接種が進み帯状疱疹を発症する患者が増加した
顔面神経麻痺の状況は不明だが増加傾向にあるのかもしれない
東京女子医大東洋医学研究所
顔面神経麻痺専門外来 針灸室